駐車場を出るときに、こすったような音がした。降りて確認したときは何も見つからず、そのまま帰った。翌日になって、あの駐車場で当て逃げがあったと聞く。
この状態でいちばん知りたいのは、気づいていなかったことが通用するのかどうかでしょう。結論を先に置きます。当て逃げに問われる2つの義務違反はどちらも故意を前提としているため、本当に気づいていなければ成立しない余地があります。ただし気づけたはずだと判断されれば話は別で、しかも事故の原因になった違反は過失でも罰則の対象になります。
また、相手の車を傷つけた事実が残っていれば、刑事の話とは別に修理代の賠償義務が生じます。
ここは自動車保険で払える部分です。この記事では罰則と違反点数を条文と警察の公表資料で確認したうえで、保険をどう使うかまで整理します。
この記事のポイント
11 当て逃げは「危険防止等措置義務違反」と「報告義務違反」に分かれ、どちらも故意が前提です。ただし事故原因の違反は過失でも問われます
22 2025年6月1日から懲役・禁錮は拘禁刑に一本化され、罰則の表記が変わりました
33 違反点数は付加点数5点と基礎点数の合計で決まり、7点なら前歴0回で免許停止30日です
44 後日でも自ら警察に届ければ、対物賠償責任保険で相手の修理代を払える場合があります(扱いは商品ごとに異なります)
心当たりがある段階なら、この3つだけ今日のうちに済ませてください。判断はあとから変えられますが、記録は戻りません。 1. 自車の傷、塗料の付着、位置を撮影する(消したり直したりする前に) 2. 心当たりの現場に戻り、不在なら駐車場の管理者に接触の届出がなかったか尋ねる 3. 警察に連絡する。保険会社より先に警察です 詳しい手順と、やってはいけないことは記事の後半にまとめました。
当て逃げでは、性質の違う3つの責任が別々に進みます。どれか1つが終わっても他は残るので、全体像を先に置いておきます。
| 責任 | 決まること | 判断するのは | 当て逃げでの中身 | 期間の区切り |
|---|---|---|---|---|
| 刑事 | 拘禁刑・罰金 | 捜査機関と裁判所 | 危険防止等措置義務違反/報告義務違反 | 公訴時効3年 |
| 行政 | 違反点数と免許停止 | 都道府県公安委員会 | 付加点数5点+事故原因の基礎点数 | 点数は過去3年の累積で計算 |
| 民事 | 相手への賠償(修理代) | 当事者間の話し合い、決まらなければ裁判所 | 対物賠償責任保険で対応できる場合がある | 3年または20年 |
この3つは互いに影響しません。罰金を払っても点数は消えず、点数の処分が終わっても修理代の支払いは残ります。以下、この順に見ていきます。
「気づかなかった」は当て逃げにならないのか
道路交通法に「当て逃げ罪」という条文はありません。事故を起こした運転者に課された義務のうち、どれを果たさなかったかで扱いが変わります。ここを分けずに考えると、自分のケースがどこに当たるのか判断できません。
当て逃げを構成する2つの義務違反
道路交通法第72条第1項は、事故を起こした運転者に前段と後段で別々の義務を課しています。
| 条文 | 義務の内容 | 違反したときの呼び方 |
|---|---|---|
| 第72条第1項前段 | 直ちに運転を停止し、負傷者を救護して道路上の危険を防止する措置を講じる | 危険防止等措置義務違反(人身なら救護義務違反) |
| 第72条第1項後段 | 事故の日時・場所・損壊した物とその程度などを警察官に報告する | 報告義務違反 |
物損だけの当て逃げでは、この2つが同時に問われます。条文は「交通事故があつたときは」と書き出されていますから、事故が起きたことを認識していない運転者に「直ちに停止せよ」と求めるのは筋が通りません。ここが「気づかなかった」場合の争点です。
私有地の駐車場でも報告義務は生じるのか
当て逃げの多くは駐車場で起きます。ところが道路交通法の義務は、原則として「道路」での事故を対象にしています。
同法第2条第1項第1号は「道路」を、道路法上の道路と自動車道に加えて「一般交通の用に供するその他の場所」と定めています。この最後の部分が問題になります。不特定の人や車が自由に通行できる場所かどうかが基準で、車両の通行を妨げる遮断物があるか、管理者が通行の用に供しない意思を示しているか、実際に通り抜けがあるかなどを踏まえて、警察が個別に判断します。
つまり「私有地だから道交法は適用されない」も「駐車場でも必ず適用される」も、どちらも言えません。商業施設の駐車場のように不特定多数が出入りする場所は「道路」に当たり得ます。施錠された社員専用の駐車場ならどうか。こちらは判断が変わることもあります。なお道路交通法の適用がない場所であっても、民事の賠償義務は別に生じます。
気づいていなければ故意を問えるかが争点になる
危険防止等措置義務違反も報告義務違反も、故意犯です。刑法第38条第1項が「罪を犯す意思がない行為は、罰しない」と定めており、道路交通法もこの2つについて過失犯を処罰する規定を置いていません。接触した認識がまったくなければ、義務が生じたことも認識していないため、故意が認められない可能性があります。
ただし、これで何も問われないわけではありません。事故の原因になった安全運転義務違反は、過失でも罰則の対象になります(同法第119条第3項)。気づかなかったことと、責任を負わないことは別です。
いっぽうで、相手の車を壊したこと自体が器物損壊罪に問われる心配はほとんどありません。刑法第261条には過失犯を処罰する規定がなく、うっかりぶつけた場合は同法第38条第1項によって不可罰です。
「気づけたはず」と判断されやすい状況
故意の有無を判断するのは捜査機関です。見られるのは、おおむね次のような点だとされています。
- 衝撃の大きさ(車体が揺れる程度なら気づかないとは言いにくくなります)
- 音の有無と、車内の状況(窓を開けていた、音楽をかけていなかった)
- 傷の位置と深さ(相手の車が動くほどの接触は、認識しなかったという説明が通りにくくなります)
- 接触後の運転(急に速度を上げた、進路を変えた)
- 自車に残った傷や塗料の付着
自車の傷を自分で消したり、修理に出して痕跡をなくしたりすると、後から状況を説明する材料も一緒に失われます。気づいた時点で撮影して残しておけば、説明の裏づけになります。
人が乗っていればひき逃げになる可能性があります
物損だと思っていた接触でも、相手の車に人が乗っていて負傷していれば救護義務違反、いわゆるひき逃げの領域に入ります。点数も罰則も物損とはまったく別枠です。停車中の無人の車との接触なら物損として扱われますが、相手が乗っていた可能性が残るなら現場の確認は欠かせません。
当て逃げで問われる3つの罰則(2025年6月から表記が変わりました)
インターネット上の解説では「1年以下の懲役」という書き方が今も多く残っています。ところが刑法の改正により、現在の条文にはその語がありません。刑罰の名称そのものが変わりました。
3つの罰則を条文どおりに並べる
物損の当て逃げでは、道路交通法の罰則規定が次のように働きます。
| 義務違反 | 根拠条文 | 刑罰 |
|---|---|---|
| 危険防止等措置義務違反 | 第117条の5第1項第1号 | 1年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金 |
| 報告義務違反 | 第119条第1項第17号 | 3月以下の拘禁刑または5万円以下の罰金 |
| 安全運転義務違反 | 第119条第1項第14号 | 3月以下の拘禁刑または5万円以下の罰金/過失の場合は拘禁刑はなく10万円以下の罰金 |
前の2つが当て逃げそのものに対する罰則です。これに加えて、事故の原因になった違反として安全運転義務違反が問われることがあります。上限がもっとも重いのは危険防止等措置義務違反です。
安全運転義務違反の欄で過失の方が罰金の上限が高いのは誤記ではありません。過失の場合は拘禁刑の選択肢がなくなり、罰金の上限だけが別に定められているためです。
懲役・禁錮が拘禁刑に一本化されました
2025年6月1日、改正刑法の施行により懲役と禁錮が拘禁刑に統合されました。法務省も「令和7年6月1日に懲役及び禁錮が廃止され、新たな刑として拘禁刑が創設されました」と説明しています。従来は刑務作業が義務づけられる懲役と、義務のない禁錮に分かれていましたが、これが1つの刑に整理されました。
したがって現在の道路交通法第117条の5は「一年以下の拘禁刑又は十万円以下の罰金に処する」と書かれています。実務上の重さが変わったわけではありませんが、解説記事の表記が「懲役」のままなら、改正前の情報だと判断できます。
罰金で済むのか、前科がつくのか
当て逃げは反則金で処理される青切符の対象ではありません。道路交通法第125条は反則行為を別表に掲げたものに限っており、措置義務違反と報告義務違反はそこに入っていません。加えて同条第2項は、反則行為をして交通事故を起こした者を反則者から除外しています。安全運転義務違反も、事故を起こせば通告制度の対象外です。
つまり当て逃げは刑事手続に乗る違反です。起訴されれば罰金または拘禁刑が科され、刑法第9条が罰金を主刑として定めていることから、罰金であっても刑罰として前科に記録されます。処分の枠組みは青切符と赤切符の違いで整理しています。
違反点数と免許停止は何点で決まるのか
7点は、ひとつの違反に付く点数ではありません。2種類の点数を足した結果です。内訳が分からないままだと、自分のケースが何点になるのか計算できません。警察が公表している点数制度の資料で確認していきます。
当て逃げの5点は基礎点数ではなく付加点数です
警察の点数制度では、違反行為そのものに付く「基礎点数」と、事故を起こしたことで上乗せされる「付加点数」が区別されています。警視庁の点数計算の原則では、ひき逃げと当て逃げの点数が次のように扱われています。
| 違反の種別 | 点数 | 区分 | 他の点数との関係 |
|---|---|---|---|
| 物損事故の場合の危険防止等措置義務違反(当て逃げ) | 5点 | 付加点数 | 事故原因の違反の基礎点数に上乗せされる |
| 死傷事故の場合の救護義務違反(ひき逃げ)※参考 | 35点 | 基礎点数 | さらに事故の付加点数と原因違反の点数が加算される |
下の行は物損との重さの違いを示すための参考です。ひき逃げは救護義務違反の基礎点数だけで35点が付き、これに死傷事故の付加点数と原因違反の点数が加わります。前歴がなくても即座に免許取消しです。
当て逃げの5点は付加点数なので、これだけでは終わりません。事故の原因となった違反行為の基礎点数が別に加算されます。
合計7点になる仕組み
事故の原因が安全運転義務違反と認定されれば、基礎点数2点が付きます。当て逃げの付加点数5点と合わせると7点です。よく挙げられる7点はこの組み合わせを指しています。
- 安全運転義務違反(基礎点数2点)+ 当て逃げの付加点数(5点)= 7点
原因が別の違反なら合計は変わります。速度超過や信号無視が絡んでいれば、その基礎点数が乗るため7点を超えます。逆に基礎点数の付く違反が認定されなければ、付加点数の5点だけで終わることもあります。
前歴の回数別の免許停止日数
処分の内容は、累積点数と過去3年間の行政処分前歴の回数で決まります。道路交通法施行令の別表第三が定める基準を、神奈川県警の一覧に沿って整理したのが次の表です。
| 前歴の回数 | 停止30日 | 停止60日 | 停止90日 | 停止120日 | 停止150日 | 取消し | 7点のときの処分 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 0回 | 6〜8点 | 9〜11点 | 12〜14点 | — | — | 15点以上 | 停止30日 |
| 1回 | — | 4〜5点 | 6〜7点 | 8〜9点 | — | 10点以上 | 停止90日 |
| 2回 | — | — | 2点 | 3点 | 4点 | 5点以上 | 取消し |
| 3回以上 | — | — | — | 2点 | 3点 | 4点以上 | 取消し |
前歴が増えると、より少ない点数で重い処分の対象になります。前歴0回なら6点から処分が始まりますが、前歴1回は4点から、前歴2回以上は2点から対象です。7点は前歴0回なら停止30日、前歴1回なら停止90日、前歴が2回以上あれば取消しの区分に入ります。
停止処分を受けた場合、停止処分者講習を受けると考査の成績に応じて日数が短縮されます。
報告義務違反には違反点数がありません
警察に届けなかったこと自体には、違反点数が設定されていません。警視庁の交通違反の点数一覧表を見ても、基礎点数と付加点数のどちらにも報告義務違反の項目がありません。点数が付くのは危険防止等措置義務違反の側です。
報告義務違反は刑罰の対象になります。ただし免許の処分を決めるのは、危険防止等措置義務違反の5点と事故原因の基礎点数です。
当て逃げはいつバレるのか
結果を左右するのは、運よりも映像です。防犯カメラやドライブレコーダーにナンバーが残っていたかどうかで、その後の展開は大きく変わります。
決め手になるのは防犯カメラとドライブレコーダー
相手が警察に届け出ると、警察は現場の防犯カメラ映像の確認に動きます。ここでナンバーが読み取れるかどうかが分岐点です。周囲に駐車していた車のドライブレコーダーに、駐車監視機能で記録が残っていることもあります。
ただし映像は残り続けません。防犯カメラは一定期間が過ぎると上書きされる設定になっているのが通例で、保存される期間は施設ごとに異なります。被害者の届出が遅れて映像が上書きされていれば、特定に至らないまま終わります。
警察が動く順序
映像が残っていた場合、おおむね次の順に進みます。所要期間は事案によって変わるため、日数の目安として受け取らないでください。
| 段階 | 警察の動き |
|---|---|
| 1 | 被害届の受理、現場の状況の記録 |
| 2 | 防犯カメラ映像の確認依頼 |
| 3 | 映像から車両を特定し、所有者を照会 |
| 4 | 所有者への連絡、事情聴取 |
数日で連絡が来ることもあれば、ひと月以上あとになることもあります。1週間音沙汰がなくても、それで終わったとは限りません。
物損の当て逃げで逮捕されるのか
不安の中心はおそらくここでしょう。数字で答えられる領域ではないので、法律の建て付けから見ていきます。
刑事訴訟法第199条は、逮捕状の請求に相当な理由を求めています。そして裁判所の規則は、被疑者が逃亡するおそれや罪証を隠滅するおそれがないなど、明らかに逮捕の必要がないときは請求を却下すべきものとしています。住居が定まっていて、呼出しに応じ、事実関係を争わない状況であれば、身柄を拘束せずに在宅で手続が進むのが通常の流れです。
逮捕の可能性が高まるのは、そこから外れた場合です。連絡を無視して出頭しない、車を処分するなど痕跡を消そうとする、身元が確認できない、といった事情が重なると判断は変わります。なお、物損の当て逃げに限った逮捕率を示した公的な統計はありません。
検挙率のデータは公表されていません
「当て逃げが捕まる確率は何パーセント」という数字が引用されているのを見かけますが、物損事故の当て逃げについて検挙率を示した公的な統計は公表されていません。警察庁の交通事故統計は人の死傷を伴う事故を対象としており、公表されているひき逃げの検挙率も人身事故に係るものです。それを物損に当てはめる根拠は乏しいところです。
確率を気にするより、自分の事故現場に映像が残っていそうかを考えた方が、次に何をするかを決めやすくなります。
警察から連絡が来たらどうするか
すでに連絡を受けている場合は、話が「届けるかどうか」から先に進んでいます。この段階でやることは限られています。
呼出しへの対応と、話す内容の整理
出頭の日時を指定されたら、まず応じます。応じない選択は、前の章で見たとおり逮捕の必要性の判断に響きます。
出頭までに整理しておくと落ち着いて話せるのは、次の点です。
- その日の行動(何時ごろどこに駐車し、どの経路で出たか)
- 音や衝撃に気づいた瞬間があったか、あったとすればどう判断したか
- 自車の傷の有無と、いつ気づいたか
- 撮影した写真やドライブレコーダーの記録
- 加入している自動車保険の証券
記憶が曖昧な部分をどう伝えるか
覚えていないところを無理に埋める必要はありません。記憶が曖昧な部分は、そのまま曖昧だと伝えます。後から説明が食い違うより、その方が安全です。
「音がしたような気はしたが、降りて見て何もなかったので走り出した」という説明は、それ自体が不自然なものではありません。事実の順序を変えずに話すことが、故意がなかったという説明の一貫性を支えます。
弁護士に相談する目安
事実関係を争わず、相手への賠償も保険で対応できる見込みなら、弁護士を立てずに進む例も多くあります。相談を考えたいのは次のような場合です。
- 接触そのものに心当たりがなく、故意を否認する必要がある
- 前歴があり、免許取消しの区分に入りそうである
- 相手の主張する損害の範囲や金額に納得できない
- 人身事故として扱われる可能性が出ている
当て逃げの時効は3年——刑事と民事で起算点が違う
時効という言葉には刑事と民事の2つがあり、期間も起算点も別です。片方が過ぎても、もう片方が残っていることがあります。
| 種類 | 期間 | 起算点 | 根拠条文 |
|---|---|---|---|
| 刑事(公訴時効) | 3年 | 犯罪行為が終わった時 | 刑事訴訟法第250条第2項第6号・第253条第1項 |
| 民事(損害賠償請求権) | 3年 | 被害者が損害と加害者を知った時 | 民法第724条第1号 |
| 民事(同上・長期) | 20年 | 不法行為の時 | 民法第724条第2号 |
刑事の公訴時効は3年です
公訴時効は刑事訴訟法第250条で刑の重さごとに定められています。同条第2項第6号は「長期五年未満の拘禁刑又は罰金に当たる罪については三年」と規定しています。
当て逃げに問われる危険防止等措置義務違反の上限は1年以下の拘禁刑、報告義務違反は3月以下の拘禁刑ですから、いずれもこの区分に当たります。つまりどちらも3年で公訴時効が完成します。起算点は同法第253条第1項により犯罪行為が終わった時で、当て逃げでは事故の直後が起点になります。
民事の損害賠償請求権は3年と20年の二本立て
相手からの修理代の請求は、民法第724条の消滅時効に従います。条文は「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき」「不法行為の時から二十年間行使しないとき」の2つを挙げています。
結論を分けるのが起算点の違いです。刑事の3年は事故の時から数えますが、民事の3年は被害者が加害者を知った時から数えます。事故から4年後に加害者が判明したなら、そこから3年間は請求できます。
20年の方は、加害者が分からないまま時間が過ぎた場合の上限です。誰にぶつけられたか分からないまま20年が経てば、請求権そのものが消滅します。3年は加害者が判明してからの期間、20年は事故そのものからの期間です。なお物損の場合は同法第724条の2による5年への延長は適用されず、3年のままです。
相手の修理代は保険で払えるのか
刑事の処分と行政処分が済んでも、相手の車を直す費用の問題は残ります。金額として手元にのしかかるのはこの部分です。
対物賠償責任保険で払える条件
自動車保険の対物賠償責任保険は、他人の物を壊したときの賠償に使う補償です。相手の車の修理代は本来この対象に入ります。
問題になるのは故意の扱いです。保険法第17条第2項は、責任保険契約について免責事由を保険契約者や被保険者の故意に限っており、重過失は免責事由から外しています。この建て付けからすると、判断の対象になるのは逃げた行為ではなく損害を与えた行為に故意があったかです。ぶつけたこと自体が過失なら、その後に立ち去った事実があっても支払われる可能性は残ります。ただし免責事由の書き方や支払の条件は約款によって異なるため、証券と約款で確認してください。
もうひとつ、順序の問題があります。届け出をしていない事故については交通事故証明書が発行されません。事故があった事実を示す書類を出せないため、保険金の請求手続きは実際上進められないと考えておいた方がよいでしょう。取扱いは商品ごとに異なるので、ここも証券と約款で確認してください。
使えば3等級ダウン、事故有係数は3年
対物賠償責任保険を使うと、翌年度の等級が3つ下がります。あわせて同じ等級のなかでも割引率の低い事故有係数が適用され、その期間は3年とされているのが一般的な扱いです。ルールは契約する商品ごとに定められているため、自分の契約での扱いは証券と約款で確認してください。制度そのものは等級ダウン事故と事故有係数期間にまとめています。
少額なら自費で払う判断もあります
保険を使うと3年間の保険料が上がるため、修理代が少額なら自分で払った方が総額で安く済むことがあります。比べるものは2つです。
- 自費で払う場合の負担 = 相手の修理代
- 保険を使う場合の負担 = 3年分の保険料の増加額
3年分の増加額は等級によって大きく変わります。低い等級ほど増える金額が大きく、自費で払う判断が有利になる範囲も広くなります。保険会社に「事故あり」と「事故なし」の3年分の保険料を出してもらって比べるのが確実です。
この増加額の計算の組み立て方と、駐車場でついた傷の修理費の目安は駐車場での当て逃げと保険の使い方にまとめました。被害者側の視点で書いていますが、修理費の相場と3年分の試算はそのまま使えます。
自分の車の修理に車両保険を使うか
自車の傷は車両保険の対象になります。相手への賠償で対物賠償責任保険を使うなら、同じ事故で車両保険を足しても等級への影響は1件分として扱われるのが一般的です。逆に相手への賠償を自費で済ませて自車も自費で直すなら、等級は下がりません。どこまで自費で処理するかは、保険会社と相談しながら決めることになります。
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当てたかもしれないと思ったときの行動手順
判断に迷っている間も、防犯カメラの映像の保存期間は進みます。手順だけ先に並べておきます。
- 自車の該当しそうな箇所を撮影する(傷、塗料の付着、位置)
- 可能なら現場に戻り、相手の車が残っていれば損傷を確認する
- 相手が不在なら、駐車場の管理者に接触の届出がなかったか確認する
- 警察に連絡し、事故があったかもしれない旨を伝える
- 保険会社に連絡し、対物賠償責任保険の扱いを確認する
- 相手が判明したら、保険会社を通じて対応する
– 自車の傷を自分で消す、急いで修理に出す。接触があったかどうかを示す材料が、気づかなかったという説明を裏づける材料ごと失われます – 相手を探して直接示談しようとする。金額の妥当性を判断する材料がないまま話が進みます – 連絡が来るまで待つと決める。報告義務は、事故があったと認識した時点から生じます
後日の届出はいつでも受け付けられる
事故の当日を過ぎていても、警察への届出はできます。むしろ道路交通法第72条第1項後段の報告義務は、事故があったことを認識した時点から果たすべきものです。気づいた時点で届ければ義務を果たしたことになり、放置すれば報告義務違反の状態が続きます。
刑事の扱いでは、捜査機関に発覚する前に自首したときに刑を減軽できると刑法第42条第1項が定めています。ただし減軽するかどうかは裁判所の裁量で、自動的に軽くなるわけではありません。行政処分の方は点数で決まるため、自ら届けたことで日数が短くなる仕組みはありません。
保険会社への連絡を先にしない
順番として、警察への届出を保険会社への連絡より先にします。交通事故証明書がないと保険金の請求手続きに進めないため、届出を飛ばして保険の話をしても前に進みません。同じ日のうちに両方済ませられるなら、それがいちばん早い進み方です。
まとめ
出発点は、義務違反が2つに分かれている点です。危険防止等措置義務違反と報告義務違反はどちらも故意を必要とするため、本当に接触を認識していなければ成立しない余地があります。ただし判断するのは捜査機関で、衝撃の大きさや接触後の運転から「気づけたはず」と評価されることもあります。そして事故の原因になった安全運転義務違反は過失でも罰則の対象で、こちらは過失の場合10万円以下の罰金です。
罰則は危険防止等措置義務違反が1年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金、報告義務違反が3月以下の拘禁刑または5万円以下の罰金です。2025年6月1日から懲役・禁錮は拘禁刑に一本化されているため、「懲役」と書かれた解説は改正前の情報だと判断できます。
違反点数は当て逃げの付加点数5点と、事故原因の基礎点数の合計で決まります。安全運転義務違反の2点が加わって7点なら、前歴0回で免許停止30日、前歴1回で90日、前歴2回以上なら取消しです。報告義務違反そのものに点数はありません。
刑事の話とは別に、相手の修理代を払う義務は残ります。ぶつけたこと自体が過失なら、対物賠償責任保険で対応できることもありますが、警察に届け出て交通事故証明書が出ていることが前提です(扱いは商品ごとに異なります)。
とりあえず心当たりがある場合は、まず自車を撮影し、それから警察に連絡にすることを覚えておきましょう。





